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photographs by Yusuke Abe text by Motoki Kobayashi figured Harue Fujiwara

野口健の気づきの扉 volume42. Insigt Realist

異様な風景
 野口は、富士山をはじめ白神山地、屋久島、小笠原諸島など日本を代表する様々な景勝地で環境保全活動を行ってきたが、常に違和感を抱いていた風景がある。それは、コンクリートがあまりにも多いということだ。
  アレックス・カー氏の著書『犬と鬼』によると、1994年のコンクリート使用量は、日本で合計9160万トン、アメリカで7790万トンであり、面積あたりで比較すると、日本のコンクリート使用量はアメリカの約30倍になると指摘している。
  世界各地を実際に見てきた野口の目にコンクリートが奇異に映るのも無理はない。そんな折に野口は不思議な商品と出会った。溶岩をスライスして加工した溶岩パネル「ビオフィルム」である。今回は「ビオフィルム」の開発者で日本ナチュロックの代表取締役社長・佐藤俊明氏との対談です。
 

野口と、日本ナチュロックの代表取締役社長・佐藤俊明氏。溶岩を利用したエポックメイキングな環境美化について会話が進む。
 

野口 「日本全国、とにかくコンクリートが多い。どれだけ景観を台無しにしていることか。でも、今さら壊すこともできない。そんなことをずっと思っていました。あるとき、コンクリートを覆う溶岩の製品があり、無機質なコンクリートが緑一面に変わると聞いて興味を持っていました。そもそも、ビオフィルムの開発のヒントは何だったのですか」

佐藤 「ヒントは富士山の麓にある青木ヶ原樹海です。樹海にはほとんど土がありません。それでもあれだけ巨大な森があるのは溶岩のおかげです。溶岩には多くの穴が開いているため、保水性にすぐれている。そのため苔が生えやすい。そしてその苔の絨毯の上に徐々に森が形成されてきた。このことをヒントに溶岩を用いて自然環境の復元ができないかなと。コンクリートは水をかけても保水性がないので、ただ流れてしまいます。ゆえに熱が逃げずにヒートアイランド現象の原因の一つにもなっている。ビオフィルムでコンクリートを覆うことにより、苔が生え、微生物、昆虫、小動物が生息する環境が生まれ、緑豊かな世界へと変わっていくのです。ビオフィルムというネーミングもここからきていて、本来は微生物共同体という意味なんです」

 
 

野口 「僕も富士山でビオフィルムが道路脇のコンクリートに貼られているのを見ましたが、灰色一色だった壁が苔に覆われ、美しい緑になった。思いつきそうで思いつかないコロンブスの卵みたいなアイデアだなあと関心しました。」

佐藤 「また、溶岩の多孔質な空隙には吸音効果もあるし、落書きの防止にも役立っています。ビオフィルムのように周りの景観と一致し、さらに生態系が生まれてくると落書きなどできませんからね」

野口 「景観的な良さ、ヒートアイランド対策、苔をはじめとした生態系、さらに防音、はては落書き防止までと。一石七鳥とも言える(笑)」

佐藤 「あとはお金がそれほどかからない。既存のコンクリートの上にパネルを張るだけだから。また都市部などビルが林立しているところは、大型の機械がもはや入り込む余地がないじゃないですか。ビオフィルムは人間一人が手で持って作業が出来るという手軽さがあるんですね」

 
奥が従来のコンクリート護岸、手前がナチュロックによる壁面。非常にみずみずしい苔に覆われているのがわかる。季節の変化も現れていく。
 
環境と経済の両立
 野口健は、 エベレストや富士山の清掃など環境保護活動をライフワークとしているが、野口がたびたび直面する問題がある。それは「環境保護」と「経済」との両立をいかに図るかということだ。

野口 「当初、清掃活動や、世界遺産登録への推進活動といったことに対して地元の方々も協力してくれると思っていたんですね。ところがそうでもない。たとえば世界遺産登録を目指すと主に環境保護を中心とした様々な規制がかかってくる。それによって公共事業が減り、地元の観光業者や山小屋の経営者も新たな負担に不安を抱く。となると反対の声も出てくる。環境保護を進めていく上で重要なのは『環境』と『経済』との両立が大事だなと。ビオフィルムを知ったとき、直感的に『これだ』って思ったんですよね。公共事業が環境破壊につながると言われていますが、何もトンネルやダムを造ることだけが公共事業ではない。逆に環境を保全する公共事業という方法もある。電線の地中化やそれこそビオフィルムもそうです」

佐藤 「ありがとうございます。ただビオフィルムのように、すでにあるコンクリートに溶岩パネルを貼るという、リニューアル的な事業が今の行政にはない。この前、ビオフィルムがテレビで放映され、品川の視聴者の方が『立会川のコンクリートに、溶岩のパネルを貼って緑化できないか』と役所にかけあった。 結果、議会で承認されて実現した。そういった動きがあれば行政は動くけど、なければ積極的には取り組んでくれない」

野口 「富士山の清掃もそう。ずっと続けてきたことで参加者は年々増え、今年は6000人を超える勢い。それだけの人が集まり、メディアも取り上げてくれると行政も無視するわけにはいかない。地元の自治体は最初は嫌がっていたけど、ついに思い腰をあげてくれました。とにかくコツコツ続けていくことが大事ですね」

佐藤 「まったくですね。またアプローチの仕方はいろいろあると思うんです。屋上緑化ははやっていますが、飛行機で上空から見ると、CO2を削減するほどは面積自体がない。ところが壁面となると、あらゆるところにある。河川、道路、海、ビル、個人の家などなど可能性は大いにあります」

野口 「僕の事務所の庭も全部ビオフィルムにしました。おかげで随分と涼しく、また見栄えがよくなりました」

佐藤 「私は家の壁面を全部溶岩で覆っています。しまいには車まで全部溶岩で覆ってみました。野口さんもいかがですか?(笑)」

野口 「いやあ、それはまだ早いかなあ(笑)」

この対談記事は2007年12月度発行の『ソトコト』に掲載されています。
 






野口健氏とナチュロック代表佐藤俊明





ビオフィルムで環境リフォームした野口邸の中庭今日は雨で溶岩がしっとり濡れていたのでなお更癒される
 
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