HOME > プレスリリース > 新聞・雑誌 > 1998.4.1 月刊 省エネルギー

1998年4月1日

生態系と景観に配慮したナチュロック 「日本全国コンクリートだらけ」「地場の石を使い、山、川、海へ」


1998年4月1日 月間省エネルギー

オピニオン
佐藤俊明(さとうとしあき) 日本ナチュロック(株)専務取締役
昭和23年、山梨県生まれ。イベントプランニングの仕事を経て、昭和60年、日本ナチュロック設立。山梨大学北村研究室とともにコンクリートブロックのデザイン研究なども手がける。平成5年、景観形成研究所設立。

生態系と景観に配慮したナチュロック

―――川や海の護岸工事、山道や住宅造成地の擁壁にコンクリートがたくさん使われています。日本全国、コンクリートだらけというのも味気ない。
「台風や地震など自然災害の多い日本では、コンクリートで固めるのもしようがない面がありますが、確かにコンクリートでは無機質で冷たく、年月が経つと汚れて景観的に問題がありますね」

日本全国コンクリートだらけ
―――コンクリートブロックの表面に模様をつけたり、ツタを描いたりしているところもありますが。
「かえって景観を破壊している。そして、コンクリートは自然環境も破壊してしまう。たとえば昔の川はアメンボウ、ミズスマシ、メダカ、小さな虫や魚がいて、チョウチョやトンボや小鳥が飛んできた。水辺には草花が咲き乱れていた」
―――コンクリートの護岸工事で、確かに水の災害はなくなったけれど、自然もなくなってしまった。
「だからコンクリートは駄目、昔の川にもどせというのではありません。コンクリートを活かしつつ、自然環境をよみがえらせ、景観を保つことはできないか。そこで考えついたのが“ナチュロック”です」
―――ロックというと、石?
「ナチュラルとブロックの造語です。ブロックの表面に自然石と砂を埋め込んだもの。透水性が高く、石の表面の微細な孔に生物が生息できる空間があり、コケや草花が生え、虫も寄ってくる。むずかしくいうと、多孔質生態系環境ブロックです」
―――まさに自然と人工とを調和させた製品ですね。
「施工も簡単で、現在のコンクリートブロックをこわすことなく、埋め込んだり、張り付けることもできる」
―――張り付けも可能なのですか?
「ええ、川にブルドーザーやクレーンなど重機を入れなくてもすむので、川の環境を破壊せずに自然環境を維持できます」
―――ナチュロックの発想のきっかけは?
「私は富士山のふもと、山梨県富士吉田市で生まれました。毎日、富士山を見て絵を描いたり、写真を撮ったりしていたのですが、年ごとに周辺がコンクリートで埋められていく」
―――富士にコンクリートは似合わない。
「何とかならないか。ふと思いついたのが、富士の大地でとれる溶岩を埋め込んだブロックでした」
―――製品化は?
「昭和60年です。その年、富士山の登山道で落石があり登山客が死亡する事故がありました。そこで山梨県から落石事故防止の土留め工事の話がきました。コンクリートブロックを積むだけでは富士の景観に合わないというので、ナチュロックで表面加工した。わずか一カ月で仕上げました」
―――それが第一号。
「自然環境との調和、短い工期で施工可能という点が評価され、その後、富士五湖や周辺の河川の護岸材料として続々と採用されていきました。出荷量も昭和60年は690個でしたが、5年後の平成2年には15万個になりました」
―――急成長ですね。
「平成2年に専用工場を建設し、5年には全国のコンクリートブロックメーカー23社と技術提携し、グループ全体で生産は年間200万個に達すると思います。昨年は、日本セメントと共同開発した、中小河川向けのナチュロック・ビオボードも販売開始しました」


・地場の石を使い、山、川、海へ
―――全国のメーカーと技術提携ということは・・・・・・。
「石は、地元の石が一番なじむ。自然を、景観を守るには、そこにある石を使うのが最善の方法です。石の持つ力で自然を呼びもどそう。それには地元のメーカーが、わが社の技術を応用して地元の石を使ってやってくれるのが一番良いのです」
―――日本の“木の文化”に対し、ヨーロッパは“石の文化”とよくいわれますね。
「数年前、スイス、フランス、イタリアとヨーロッパを視察しましたが、家も道も壁も、みごとな石造りです。富士山周辺と同じ条件のところということで、スイスのルガノへ行ったのですが、コンクリートブロックなど一個もない。そのへんにころがっている普通の石をみごとに積み上げている」
―――まさに石の文化ですね。
「フランスのコンクリート研究所へ寄ったとき、スイスの話をしたら、景観を守るには、そこにある石を使うのが最善の方法だ、と。もし、石が落ちても、また積み上げればいいんだ、といわれたのも耳に残っています。日本でも同じ、土地の石を使うのがいいんです」
―――関東は関東の石、九州は九州の石。
「永田町の首相官邸の擁壁もナチュロックを使って補修したんです。関東は富士火山系の石が合う。十年ほど前、兵庫県三田市の宅地造成の仕事をいただいたのですが、うちからもって行った石がなじまない。結局、芦屋の高級な御影石を使いました」
―――ナチュロックは、生態系に配慮した自然石といってもいいのでは。
「平成7年9月に、幕張メッセで開かれた建築・都市総合技術展に出品したのですが、ちょうど台風が通り過ぎた後で、ハトが会場に迷い込んできた。そのハトがナチュロックから離れない。次の日はコオロギも鳴き始めた。他のブースに出展している方から、ナチュロックさんは演出がうまいね、といわれてしまいました(笑い)」
―――最近は建設省もコンクリート護岸をやめようという動きがありますね。
「1997年から2001年までの5年間で9,800kmの河川整備を計画していますが、その半分はコンクリートを一切使わないで木や植物の代替素材を利用する方針です。いい方向に向かっています。また、ある電力会社から火力発電所の排水路にナチュロックが使えないかという問い合わせも受けています」
―――河川の護岸以外にもいろいろな使用法がありそうですが・・・。
「ナチュロックは保温、保湿性に優れ、真夏のコンクリート壁面の照り返しも遮断する。都市のヒートアイランド防止にも役立つのではないかと製品化を考えています。富士山から山、川、海、そして都会へ、ナチュロックの応用範囲は広いと思います」