1999年6月16日
進む壁材の研究 「草やコケが着生しやすい、天然多孔石の厚さ5cmの多孔コンクリート板を開発。」
1999年6月16日 毎日新聞
熱帯夜防止に効果 建物の保護にも一役
エネルギーの大量消費と、コンクリートに遮られて水分蒸発による冷却がないため、都市部の気温が郊外に比べ高くなるヒートアイランド現象が起きている。コンクリートに蓄えられた熱は夜間放出され、熱帯夜となる。その防止には植物が大きな効果があることが分かってきた。建物の緑化は、建物の保護にもなるという。
東京都豊島区の俳句講師、加藤信夫さん宅は、10年ほど前、塀ぎわに植えた雌雄2株のキウイが2階屋の上までツルを伸ばしている。「日よけになればとロープで誘引したが、屋根を越えるとは。近所の人が飼っているニワトリのフンを時々与えるのがいいのかな」と本人も驚く。優に8メートルを超え、昨年は600個近い実をつける大豊作だった。夏は屋上の棚で葉を茂らせ、妻でグリーンアドバイザーの恭江さんがラン栽培のために造った温室を直射日光から守る。ほかにもオカメヅタ、ブドウなど、自宅の周囲やベランダ、屋上は木や花であふれ、心なごむ空間になっていた。 これらの植物は加藤さんが自分で買ったり、まいたものだが、豊島区は1983年から毎年、希望者に1軒20株までツル植物を無料で配布している。屋上緑化や生け垣などに補助金を出す自治体は増えてきたが、ツル植物の支給はユニーク。公園緑地課の上村彰雄課長は「過密地域なので木を植えようにもスペースがない。壁面の利用に目を付けた」という。
毎年5月に申し込みを受け付け、担当者が訪問して条件に合った種類を決定、小冊子「つる植物園芸読本」まで付けて配達してくれる。当初は年間5軒ほどの申し込みだったが、昨年は21軒、今年は74軒と急増、「緑への愛着が深まっているのだろう。あまり増えると予算の都合で抽選にしなければならなくなる」とうれしい悲鳴だ。
進む壁材の研究
ツル植物以外にも、壁面緑化の研究が進められている。日本ナチュロック(東京都港区)は、草やコケが着生しやすい、天然の多孔質石で作ったブロックを開発した。ベジクリート工法協会(大阪府門真市)は、植物の生育を阻害するアルカリ成分が出ないように特殊な膜を張った、厚さ約5センチの多孔コンクリート板を開発。穴に土を入れ、植物を植え込む。いずれも河川の護岸の緑化用に開発されたものだが、建物の壁材として使うことも検討されている。大手建設会社から共同研究の申し込みもあるという。
住宅周囲の花壇や仕切り代わりになる、取り付け・移動が簡単なものもできた。ボンド商事(東京都千代田区)のガーデンマットは、ヤシの繊維でできた30センチ四方のスポンジのようなもの。種と土少しを混ぜたものや苗を穴に埋め込み、たっぷり水をやるだけ。平面に置くタイプと、薄くて膨張の少ない壁掛けタイプがある。各1,200円。土より軽く、汚れず、断熱性もあり、不要になれば燃えるごみとして処理できる。
サカタのタネ(横浜市)の花おこしは、1辺30センチ、深さ13センチの発泡スチロール製の正方形の箱。ふたも通気性の良い特殊な発泡スチロールでできており、穴が開いている。箱の中に土を入れ、穴に苗を植え込み、縦にして積み重ねれば花の生け垣ができる。パンジー、ベゴニア、マリーゴールドなど、草丈が低く、株張りのするものが適しているという。価格は、土や付属品などが付いた3個セット1万1500円、箱だけでは30個5万4000円。